「玄趣庵」に行ってきました

「玄趣庵」に行ってきました

池内さんの主宰するギャラリースペース「玄趣庵」に行ってきました。
ギャラリースペースといってもいわゆるホワイトキューブではなく、
数寄屋造りの純日本家屋です。

あらためて池内さんとは、現代美術のディレクター兼ギャラリスト池内務氏のこと。
かつて大森に「レントゲン芸術研究所」という実験的なオルタナティブスペースを立ち上げ
数々の伝説とも言える展覧会を世に放ち、
その後大森を離れ、コンセプトをガラッと変えて
「レントゲンクンストラウム」として表参道に、
そして
「レントゲンヴェルケ」として吉祥寺→芋洗坂に、
さらに
「ラディウム」として日本橋馬喰町に、
そして今は自宅に併設した深大寺の「玄趣庵」となって
長い間現代美術を紹介し続けています。

……と、こんなにさらっと紹介できるほど池内氏の活動はシンプルではないのですが、
場所の変化だけをかいつまんで言うとこのような感じです。

実は私、表参道時代にアルバイトとして一時期池内さんのもとで働いていたことがあります。
表参道にあった「レントゲンクンストラウム」(以下、長いのでレントゲンと表記します)は
マンションの、四畳半ほどの一室をメインの展示スペースとしており、
おそらく日本で一番小さなギャラリースペースだったのではないのかと思うほど
それはそれは狭い空間でした。(展覧会によっては他の部屋も使ったりしていましたが)
しかし、この狭いスペースで、とんでもなく力のある、そしてエポックメイキングな作品を
展示していたので、まさに世界に通じる四畳半といったところでしょうか。

ところで私がどうしてレントゲンで働いていたのか。
それはたまたまレントゲンで開催されていたあるアーティストの展覧会がきっかけでした。
大学を卒業し、京都市のアーティストインレジデンスから戻ってきた私は
(半年だけ作家活動をしていた過去が……)
「これからは表現を“する側”ではなく“伝える側”になろう!」と
まずはギャラリーで働くことを考えたのです。

いくつかのギャラリーに目星をつけ、自身のポートフォリオを握りしめ
飛び込みで就職活動をしていた時に出会ったのがレントゲンで開催されていた
フロリアン・クラール氏のインスタレーション。

四畳半の展示室の壁面に独特な文様(パターン)がびっしりと描かれ
部屋の狭さとあいまって、一歩踏み入れるとその不思議な世界観に
身体を取り込まれるような五感に訴えるインスタレーションでした。

懐かさと孤独と生温かさが合わさったような人間にとってものすごく根源的な……
……記憶の奥に刷り込まれている風景に出会ったような強烈な体験でした。

そして、「ここで働こう」と思ったのです。

今思うと何のスキルも経験もない私を池内さんはよく雇ってくれたなと思うのですが
とにかく私は表参道にある“世界に通じる四畳半”を日常とすることができたのです。
なんという贅沢。

さて、話は戻って深大寺の「玄趣庵」。
実は「玄趣庵」に拠点を移してから訪れるのは初めてで、
池内さんとも数年ぶりの再会だったのですが
想像以上に展示空間はリラックスしていて
池内さんも変わらずに池内さんで(笑)、
しばし親密に作品と向き合うことができました。

「玄趣庵」は数寄屋造りの日本家屋なので、従来の美術館やギャラリーのような
非日常空間ではなく、そこで人が生活をすることを前提とした日常空間です。

だからこその空間全体の身体的なフィット感と、そこに佇む作品の“素”の様子。
そうか、作品も生き物だとしたら、住むように、過ごすように、こんな風に
佇んでいられることが幸せなのかもしれないな、と思ったり……。

なんだか表参道時代の展示のあり方を思い出す、久しぶりの訪問でした。